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[ファンタスティック4:ファースト・ステップ] –制作費が足りないと、試練まで足りなくなるんでしょうか…–

G.Mario 2026. 3. 18. 03:37

*本記事の性質上、作品のネタバレを含みます。ネタバレを望まれない方はご注意ください。

 

https://youtu.be/bWkbgR2jGcw?si=jSKr1a2QUKdzs7IX

 

 個人的に、作品をおいしくしてくれる存在はもちろん主人公のドラマだと思うんですが、少なくともアクションがベースのファンタジーやSF映画であれば、悪役、つまりヴィランの重要性はかなり大きいと思っています。というのも、ヴィランは主人公に葛藤のきっかけを与え、そのヴィランが持つ能力によって、観客に「主人公がこの難関や試練をどうやって乗り越えるのか」という期待感を抱かせてくれる存在だからなんですよね。クライミングを実際にやっている方、あるいはそういうスポーツを観る方も想像してみてください。画一的であまりにも簡単な岩壁ばかり並んでいたら、選手本人の達成感も薄いですし、観ている側としても退屈が押し寄せてくるはずです。そういう意味では、岩壁そのものがヴィランではないにせよ、主人公がヴィランの試練を克服していくというビルドアップがあるからこそ、「正義が勝つ」という分かりきった結末を見ても爽快ですし、「いい映画を観たなあ」という気分になれるんだと思います。

 

世界的には有名なヴィランなのに、韓国限定ヴィランに見えない……株をやっている近所のピエロのバイト兄さん……

 

 そんな観点から見ると、今回の[ファンタスティック4:ファースト・ステップ](以下、「ファンタ4 新たなる出発」と表記します)の場合は、過去作のトラウマのせいなのか、主人公4人のドラマを丁寧に描くことに全力を注ぎすぎたあまり、ヴィランの魅力を銀河の彼方に放置してしまったような印象があまりにも強かったです。なんといっても、『ファンタスティック4』シリーズでは欠かせない、憎みきれないヴィランである“シルバーサーファー”が、進化したCG技術と並行宇宙設定によって女性版として登場し、たっぷり見どころを期待させてくれたにもかかわらず、です。

 

既存ファンにはおなじみの、鋼鉄ハゲ兄さんイメージの「シルバーサーファー」

 

 何より今回の[ファンタスティック4:ファースト・ステップ]は、歴代の[ファンタスティック4]シネマティックシリーズとは完全に異なる、副題そのままの“新たなる出発”を図っているかのように、魅力的な俳優陣、それを支える素晴らしい感情演技、そして原作コミックの世界観を魂の底まで引っ張ってきたような美術とミザンセーヌを見せてくれます。アンディ・ウォーホルのポップアートで飾られたレトロフューチャーな感性、『ドラゴンボール』の背景を思わせるような丸みのあるデザインでありながら、現代的なセンスを絶妙に混ぜ込んで、決してダサく見えない美術には感嘆するしかありませんでした。レトロなのにモダンで洗練された感覚もあって、本当に“並行世界の1960年代アメリカ”を見ているような感覚は、「さすが」の一言が真っ先に浮かぶほどでした。

 

まさに映画[フィフス・エレメント]っぽさもありつつ、現代とモダン感覚が混在した新鮮な美術でした。

 

 そして主人公4人の掛け合いもよく、ちょっと油断すると最も比重が大きくなりがちな科学者“リード”と、世界的リーダーになった“スー”に偏りすぎないように、前作まではトラブルメーカー役だったヒューマン・トーチには、ちょうど女性版になったシルバーサーファーとの見せ場が用意されていましたし、出番も本当に“それ以上でもそれ以下でもない”という立ち位置だった“ベン”にも、ほどよくギャグを混ぜながら彼なりの出番が確保されていました。ただ、やっぱり今回も“ベン”が4人の中ではいちばん浮いていて、“ベン”だけのヒューマンドラマが、まるで途中で編集で切られたみたいに何事もなかったかのように消えてしまったのは、本当に残念なポイントでした。

 

むしろベンより右側のロボット“ハービー”のほうが出番を全部持っていった感じ

 

 シルバーサーファーへの向き合い方として、ある意味では王道とも言える方法を取ったのも新鮮でした。設定上、シルバーサーファーは彼らのスペックでは到底太刀打ちできない相手なのに、そこで理系マン&ウーマンで構成されたチームが理系脳でしか対処してこなかったシルバーサーファーに対し、我らがヒューマン・トーチ“ジョニー”が、宇宙語で辛うじて一文だけ英訳されたものを手がかりに、宇宙語TOEIC950点級のマスタリーを発揮し、文系的な感性で敵を転向させてしまうという離れ業をやってのけて、多彩さを見せてくれたりもしました。

 

あんな鋼鉄みたいなお姉さんですら文系的なセリフに落ちる(違う)

 

 でも、ここで最大の問題が起きます。そう、劇中のメインヴィランである“ギャラクタス”の演出です。これが本当に、これまで見てきたマーベル・フランチャイズのメインヴィランの中でも、歴代級の“無魅力ヴィラン”ランキング上位に一瞬で食い込めるレベルでした。初登場時は本当に超宇宙的存在として、一人でも光速を超える飛行をしながら圧倒的な戦闘力を見せるシルバーサーファーが主として仕えていて、その彼女ですらギャラクタスの前ではまるで歯が立たないという恐ろしさを見せてくれます。しかも地球よりはるかに大きい惑星をあまりにも簡単に粉砕してしまい、準サノス級の強大なヴィランであることを示唆……するんですが……

 

確かに、こういう[グレンラガン]でしか見なさそうな、めちゃくちゃ恐ろしい存在ではあるんですが……

 

 いざ地球に降りてくると、アントマンがちょっと大きくなったくらいのサイズで、地面を見に来た農家のおじさんみたいに土の匂いを嗅いで、のっしのっし歩き回るんですよね。目的は、リードとスーの間に生まれた、自分の役目を代わってくれる赤ちゃん、“フランクリン”。24時間惑星を食べ続けなければならない、よく分からない終わらない残業人生を背負ったギャラクタスが、真の休暇を楽しむために、引き継ぎ要員として最適な候補フランクリンを探してさまようわけですが、当然ながら我らがファンタスティック4が立ちはだかります。

 

ただのニューヨーク観光に来た宇宙農夫

 

 うーん……で、そこでジョニーの火炎放射で一瞬目がくらんでグロッキーになり……ベンにちょんと殴られたら、とりあえず彼を囲っていた機械が壊れ、スーが念力を使うと止まるには止まり……えーと……それからリードがあたふたしながら屋上まで上ってゴムゴム登攀に失敗すると、彼をつかまえて……ゴム紐で遊ぶ子どもみたいにビヨンビヨン引っ張って遊んでいたら、後頭部を殴られてスタンされます。

 

ビル壊すの楽し~い!!

 

 うううん……じゃあ今度こそ、このうるさいモスキート4を片づけるために何か能力を使うんですよね? いいえ。ただフランクリンを探すX線みたいなものをちょっと撃って終わりです。体からドローンの群れが飛び出して妨害するとか、圧倒的な念動力を見せるとか、ジョニーの炎よりさらに高温のエネルギーを放つとか、レーザービームを撃つとか、衝撃波を放つとか、精神攻撃をするとか、自分が乗ってきた宇宙船で地球を破壊し始めるとか……まあ……何もしません。本当に、夜中に蚊を叩こうとする私たちの人生みたいに、ただ手足をぶんぶん振り回すだけです。いや……人間ですら蚊取りスプレーを使えば、蚊から見たらコズミックホラーそのものみたいな力を発揮するのに……ギャラクタスは……本当に何もありません。いっそ[進撃の巨人]の超大型巨人のほうがよっぽどうまく戦っている感じです。

 

彼は別に間抜けでも何でもありませんでした。ギャラクタスに比べれば、ですけど。

 

 しかも[アベンジャーズ]シリーズのインフィニティ・ガントレットを持つサノスのような圧倒的武力と立体的な葛藤を生む実行動機、[ダークナイト]のジョーカーみたいな有能さ、いや、もっと譲って[映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル]の“パラダイスキング”よりも魅力がなくて小物っぽいんです。初代アベンジャーズ期のソーがハンマーをぐるぐる回しながら頭をコンコン叩いて、最後に電気治療でも食らわせたら勝手にリタイアしそうなくらいのヴィランで、なんでシルバーサーファーがこんなの相手にビビり散らしているのか理解できないほどです。闇金にでも手を出してたんでしょうか。

 

?? : ダイ ダイ ダイ ダイ ダイ ダイ ダイ!!

 

 もちろん、一応弁護しておくなら、彼が本気で暴れたら地球はすぐ粉砕され、自分の後継者となるフランクリンも跡形もなく消えてしまうから慎重に戦っていたこと、そしてあまりにも超越的な存在なので、現実的な意味でバランス調整をしないと、ファンタスティック4では蚊どころかハエ以下の攻撃力しかなくて、GPTとGeminiが頭を抱えても勝ち筋が出てこないから、こうしたのかな……という気はします。とはいえ、それにしてはシルバーサーファーも飛び回る以外にアクションシーンが本当にほぼ無いに等しいですし、作品全体を通して人物同士の葛藤やドラマばかりが強調されて、肝心の“戦いらしい戦い”がほとんど描かれません。ここまで来ると、本当に制作費が途中で足りなくなって、どこかで妥協したんじゃないか? と疑いたくなるレベルです。

 

劇中を通して本当に魅力発散がゼロに収束していくリードのゴムゴム能力

 

 しかも、「子ども一人を差し出せば地球全体が助かる」というトロッコ問題、あるいは功利主義的ジレンマまで提示しておきながら、何十億もの並行地球人たちは、まるで孟子の性善説そのままのユートピアに生きているかのように、びっくりするほど従順なんです。次元移動装置を作るために全地球規模の電力エネルギーが必要だから、一定時間になったら全員一斉に電気を止めます! と言われて、ちょっと考えてみてください。いくら非常用電源があるとはいえ、病院のICU、あるいは療養病院で延命治療を受けている患者さん、自宅で生命維持装置につながれている患者さん、暗くなった街を徘徊する凶悪犯など、ものすごい反対や社会的混乱を招く選択のはずなのに、それをみんながカチッと守るんですよ。いくらフィクションとしてのリアリティを加味して観るにしても、映画自体があまりにも淡白なので、こういう想像でもしていないと観ている間じゅう観客が平壌冷麺みたいに味気なくなってしまいそうなプロットでした。せめてヴィランに魅力があって、葛藤要素の動機も明確で、その葛藤を推進していく力と、主人公たちに厳しい試練を与える存在でさえあれば、平壌冷麺どころかブルダック炒め麺級の刺激になっていたはずです。せめて、ギャラクタスが投げかけた葛藤によって、全地球人の命VSフランクリン一人の命を、演説一発バーン! で解決★するのではなく、それ自体を一つの試練として乗り越えていく過程を、もう少し深く描いてくれていたら、少なくともギャラクタスを超えて作品そのものの魅力も、もう一段上に進化していたのではないか、という気がします。

 [ファンタ4 新たなる出発]、せっかく出発したのですから、どうか次回作ではもっと良い姿を見せてほしいです。