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劇場版『ブルーロック -EPISODE NAGI-』-キャラ関係図のクリシェ破壊

G.Mario 2025. 2. 12. 21:52

*本ポスティングは作品のネタバレを含んでおります。ネタバレを欲しない方はご注意ください。

 

https://www.youtube.com/watch?v=NAlKBPMJ3Qs&ab_channel=EMOTIONLabelChannel

 

 

 一時、韓国で世間的な人気を呼んだミームがありました。 「ツマらなすぎて死にたくなった。」 「私にとってサッカーは殺人だ。」 「私、降臨」

といった中2病を想起させるインパクトの強いセリフが大流行し、何度もネットミームに使われました。 このミームを生んだ元作の名前は『ブルーロック』。現在アニメーション版は韓国でも声優吹き替え版が流れるほど人気を下支えしております。

 

これが韓国でミームとなったあのシーン

 

 日本がワールドカップで優勝するため、最強のエゴイストFWを育成することを目標にし、 『ブルーロック』と呼ばれる特殊なファシリティーを設置。 ここに日本全国のストライカーの有望機々300名を送り込み、 最後の最後まで優勝した一人だけが生き残る『バトルロイヤル』スタイルのサッカー育成計画が実行されます。

本当に天才ストライカーだけで解決できるのかな?

 

 しかし、この作品の真の魅力は、 何度とも微笑ましく感じることになるスポーツアニメのクリシェにすら議論を挙げるようなストーリーを実現している点にあります。劇場版『ブルーロック -EPISODE NAGI-』は、そのありきたりなストーリーに相反するように、 今まで視聴者が常識だと考えていたキャラの人間関係やダイナミクスを大きく変えています。

 

こんなところに監禁されずともよくやっているソンとリオネル・メッシはいったい。。。

 

 『ブルーロック』が進行するにつれ、従来のスポーツアニメの定石を覆す展開が次々と繰り広げられます。

普通のスポーツ作品では、仲間同士の友情が深まり、チームワークを誓い合い、 メンバー間の葛藤や衝突を乗り越えながら絆を育てるのが通例です。 しかし、『ブルーロック』ではそのような王道展開を破壊し、 キャラクターたちが自らの生存のために非情に決断を下し、 「生き残るためなら仲間との絆すら断ち切る」冷酷なシナリオを見せつけます。

さらに、劇場版『ブルーロック -EPISODE NAGI-』では、 主人公の一人である御影玲王と凪誠士郎の関係に焦点を当て、本編では深く描かれなかった二人の心情変化を丹念に描写。

 しかし、映画の後半に入ると、それまで積み重ねた感情の変化が 急展開を迎え、一気に波乱のクライマックスへと突き進みます。

 

この部分まででも典型的なスポーツアニメでした。

 

  劇場版では、典型的な王道スポーツアニメのように、サッカーに夢を抱く高校生・御影玲王と、何事にも無気力ながらも玲王の執拗な勧誘によってサッカーを始めた隠れた天才・凪誠士郎のコンビに焦点が当てられます。本編では描かれなかった彼らの過去のエピソードを中心に物語が展開し、特に、玲王と凪の関係性がどのように変化していったのかが細かく描かれます。そして後半には、ついに2人が決別する瞬間が訪れます。

最もおおいセリフ:'面倒くさい'

 

ただし、本作は映画としての構成面においていくつかの批判点も挙げられます。前半で丁寧に築き上げたキャラクターの心情の変化が、後半になると一気に畳みかけるような急展開で処理されてしまう点。また、本編アニメのシーンの再利用や、劇場版オリジナルのカットでさえもバンクシーンのように繰り返し使われる部分が目立ちます。さらに、制作費や演出の関係でCGを取り入れた場面があるものの、これが劇場版としてふさわしいクオリティなのか疑問を抱かせるレベルの作画崩壊を見せてしまっています。

 

通常、作画崩壊は2Dアニメで発生することが多いが、本作では3D作画において頻繁に見受けられる。

 

 それでも本作が評価される大きなポイントは、これまでのスポーツアニメが避けられなかったストーリー上の制約を深く突き破った点にあります。一般的なスポーツアニメでは、「天才型」のキャラクターが初めは「俺一人で十分」と思い込みながらも、最終的にはチームの重要性を学び、考えを改める、という成長パターンがよく見られます。しかし、本作では「勝つためなら過去の絆すら簡単に切り捨てる」「自分の成長に不要だと判断すれば即座に見限る」といった、従来のスポーツアニメにはない非情な決断を描きます。そのため、まるで『三国志演義』のような群像劇を見ているような感覚に陥るのです。昨日まで仲間だったキャラクター同士が、試合で敗北した瞬間、躊躇なく相手のエースを引き抜き、次の試合では敵として対峙する。まるで彼らが本当にかつてのチームメイトだったのか疑問を抱くほどです。

 

???:「おい、お前の恋人、ちょっと借りるぜwww(違う)」

 

 通常のスポーツアニメは、競技そのものがサバイバルであることを前提としながらも、最終的にはチームの成長や友情に焦点を当てる作品が多いです。たとえば『Free!』や『ハイキュー!!』『ダイヤのA』などは、シーズンの最終決戦直前で終わりを迎え、次の挑戦へ向けて仲間たちの絆がより深まるような展開が一般的です。一方で『ユーリ!!! on ICE』『SK∞』のようにソロ競技をテーマにした作品では、ライバルと親交を深めながらも、競技では真剣に戦う姿が描かれます。そして、王道を完全に逸脱した『テニスの王子様』のような作品も存在します。

 

果たしてこの漫画はスポーツ作品なのか…

 

 これらの定番パターンに対し、劇場版『ブルーロック -EPISODE NAGI-』は、一見すると王道展開を踏襲しながらも、一瞬で急転直下の展開を迎えます。友情?絆?そんなものは自分の未来のためなら、いつでも簡単に捨て去り、裏切る。それが当然の世界なのです。自分の人生を賭けた試合の中で、甘い考えを持っていたら淘汰される。こうした現実的な価値観を、チームスポーツでありながら、個人競争のバトルロイヤルとして成立させることで、従来のスポーツアニメが持つ構造的な限界を打破しているのが本作の大きな意義ではないでしょうか。

 

??? : 「さあ、殺し合え!」

 

 また、本編では見られなかったキャラクターの中でも、御影玲王の家に仕える「バーヤ」ばあやの存在や、玲王のパーソナルカラーである紫、凪のパーソナルカラーである白、そして「強い友人とともに冒険に出る」という性格、さらには「何事も面倒くさがるが、友人が誘えば全力で取り組む」という強者の特性など… これらの要素が非常に『HUNTER×HUNTER』のオマージュを感じさせました。つまり、御影玲王と凪誠士郎は、『HUNTER×HUNTER』の主人公の一人である「キルア」の性格を二つに分け、それぞれ別のキャラとして落とし込み、『HUNTER×HUNTER』におけるキルア&ゴンのコンビをオマージュした構成になっているように思えました。この要素は、劇場版限定の追加エピソードだからこそ分かる部分であり、特に「バーヤ」ばあやのキャラクターデザインが、その最大の証拠と言えるでしょう。

 

劇場版『ブルーロック -EPISODE NAGI-』限定キャラ「バーヤ」おばあちゃん
『HUNTER×HUNTER』に登場するゾルディック家の執事、「ツボネ」ばあや

 

『HUNTER×HUNTER』のキルア(左)&ゴン(右)のコンビ

 

『HUNTER×HUNTER』におけるキルアのパーソナルカラーや性格を二人に分け、ストーリーテリングはキルア&ゴンの構成に似せた玲王&凪

 

 ともあれ、本作の独創的なストーリーテリング戦略には感服しました。一言でまとめるなら、「純愛を装ったNTR作品」だったということでしょう。次回のポストでまたお会いしましょう!